五巡目の一
ピレネーに帰ってからのナポレオンは、皆の前で堂々と読書をするようになっていた。
驚くみんなの反応を確かめながら、満ち足りた感覚で生き直し始めたことは、何よりも喜ばしいことであった。
その頃の彼のミタマは構造界から独立宇宙へと昇っていた。鬼は追い出され、バンパイア度も一パーセントにまで降下していた。
一方、バンパイアの超豪華お茶会は超豪華本の読書会へと発展していて、そこでは第一皇后のバラの女王やポーランドの花の王女
さらには第二皇后までもが参加し始め、日本からも天皇家関連の読み手とか、靖国の落ちこぼれや、明治の篤姫とか和宮までが参加するといった始末であった。
バンパイアとはかくも華やかで格式の高いものではあるのだけれども、佐田の著書が読まれている場合はまだましではあっても、それが別物になると何やら気持ちの悪いものになるらしく、日本の正統派は離れてしまうしかない歪んだもののようであった。
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五巡目の二
赤城神社での特別浄化があったあと、ヨーロッパの山の盟主マッターホルンに、ナポレオンは招かれて出かけていった。
彼の拠点をピレネーからマッターホルンに移す試みがなされようとしていたが、なかなかうまくいかないので、どういうことなのか調べてみたところ、旧体制側に牛耳られたひどいものであることがわかってきた。
ピレネーからマッターホルンに移ることは、そこにヨーロッパ一の処刑場があることでもあり、一見いいことのように思えるのであるが、結局は正統派のナポレオンを封じ込めるための移籍のようであった。
正統派のメンバーのいるまともな場所には行かせてもらえず、伏魔殿のキリスト教徒が支配する牢獄のような場所に置かれたからである。
どうにかしてほしいとこちらに依頼があったので、無理やり正統派の仕組みメンバーのいる場所に移ってもらったところ、それに対する反撃がものすごかった。
ルビ付きの日本語の本を手渡してそれを読めと指示してきたとのことだけれども、それはやさしい子供向けのナポレオンの伝記で、彼の思いあがりを助長しようとするものであった。
つまり彼の中に鬼を送り込むためのものだったのである。
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五巡目の三
マッターホルンの正統派の拠点に移ってナポレオンが自伝を読まされていた頃、こちらにはとんでもない妨害操作が仕掛けられていた。
ニュージーランドの幽界を私有地として買い取ってほしいという依頼が、眠っているこちらに入ってきたのである。
ニュージーランドを買う件については以前からこちらに依頼があって、その都度その可能性について確認をとっていたのであるが、買うことはできても意味がないということで、結局うやむやになってしまっている案件であった。
今回は三回目で、しかも眠っている状態でなされたもので、こちらがどんどんその話を進めていく展開になっていったのだった。
それはナポレオンのロビンソンクルーソー問題にかかわる内容のもので、五台のヘラクレスに対して、六台のナポレオンの拠点確保のために必要となるものだ、といった感覚で事が進んでいった。
ナポレオンの奥に混沌としたものがあって、それが何なのか明確にできない状態での手探りであったが、ニュージーランドの幽界を買い進めていく途中で目が覚めた。起きて確認をとってみると、異次元では現実にそれが進行していたのだった。
ニュージーランドの幽界はほとんど手付かずの原野であって、ナポレオンを中心にした五十名ほどのメンバーが、佐田が買い取ったニュージーランドの原野を、整備しなくてはならない状態になっていた。
現実のこちらからしてみるととんでもない話であるが、旧体制側にしてみると、そこには素晴らしい自然があり、別荘感覚の避暑地としては最高の環境が整っているということで、贅沢な遊び場として確保したい意図が以前からあったのである。それをナポレオン対策としてこちらに確保させようとしていたのであった。
仕組みの総合先導役の私有地として確保させて、そこに入り込んで乗っ取る、それが伏魔殿側の目的なのであるが、物質人間のこちらのものとしては、確保してもほとんど意味がない。
しかしナポレオンの拠点としてそれを確保すれば、それなりの意味は出てくる。それで実際にそこが拠点として成り立つものかどうかの確認作業が、かかわりのある各地の担当者によって進められていったのだった。
あまりにも突拍子のないことなので、幽界現場のことはあちらにまかせて、こちらは生活現場での権利を行使して東京まで出かけ、半日ほどあちらとの接触を断ったのだった。自宅に帰ってあちらの動向をうかがってみたところ、大変なことになっていた。
ナポレオンを中心にした五十名ほどのメンバーで、生活環境を整えるための探訪とか整備が進められていったのであるが、外出したこちらが帰宅してそのあとの確認をしたとき、彼らは深いヘドロの中に埋もれて見えなくなっていた。
それは仕組みで常々こちらが廃墟宇宙のヘドロの底を掃除する領域と同質のもので、結局その大掃除の課題をナポレオン達とこなさなくてはならないのだった。そしてその作業が終わったとき、ナポレオンはエリゼ宮に戻っていた。
結局マッターホルンでまともな働きをしてもらいたくない伏魔殿の策略に乗せられて、とんでもない迷路に誘い込まれてしまっていたのだった。
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五巡目の四
エリゼ宮に戻ったナポレオンはバンパイアに復帰していた。彼の中にはおぞましい巨大な鬼が居座っていて、少々のことでは動きそうもない。
なぜそういうことになったのか自覚があるのかどうか聞いてみると、伝記を読んでいるといい気になっていく自分がいることには、気がついていたのだという。
佐田との直接の調整ができないまま、マッターホルンの正統派の導師方にもお手上げ状態となり、ピレネーや赤城山などあちこちに連絡をとって何とかしようとしていたらしかったが、こちらが自分の課題に集中していたため、どうにもならないままだったらしい。
自分の中の鬼の処理もできないようではとこちらが眠りに入ったあと、前記したような状態に引きずり込まれて、担当の導師の責任としてその処理をしなければならなくなったのだった。
そして巻き込まれて埋もれていたメンバー達と共に、大掛かりな仕組み宇宙浄化が進められていったのだった。それは総合先導役の課題そのものの最前線の課題であった。
五巡目の五
ニュージーランドからナポレオンを救い出したあと、彼の拠点探しが改めて検討されることになり、各地の担当者の意見交換と現場調整が進められていった。
普通の拠点ではとても扱えないので、仕組みの戦士で構成されている赤城山がふさわしいのではないかとの意見に傾くのだったが、赤城山は四十九日の施設はないので無理だということになった。
それでは富士山のどこかに置くしかないが、佐田がいないことにはどうにもならないということで困っていたところ、佐田の私有地で預かろうということになった。
河口湖の浅間神社の裏の山の手に、以前からの佐田の幽界の私有地が残されていたし、そこでは四十九日の扱いもできるということだったので、やっとそちらで再調整されることになっていったのだった。
そうしてナポレオンの新しい拠点が決定され、下から上まで二十五段階の導師と、総合先導役の佐田が二十六番目の導師として正式に付くことが要請された。
そして落ちたミタマのレベルを上げるための再調整が赤城山で行われることになった。滝行と剣術、そして読書会の三つで構成された特別調整であった。
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五巡目の六
赤城山での特別調整は前回の続きとして行われたが、五百名ほどのメンバーが呼び集められ、剣術、棚下の滝行、そして赤城神社での瞑想へと続いていったが、夜の読書会はその夜で最終回ということになった。
開ける星の読み手は残念がったが、赤城山にふさわしいものではないということで、お開きとなったのだった。
富士山の拠点に帰ってからのナポレオンの瞑想は下向きのもので、深々と引きずりこまれて旧体制の枠外古層まで到達してしまう恐るべきものだった。
埋もれて戻れなくなった彼が寝ているこちらを起こしてきたので、一緒に瞑想浄化をすることでやっと浮き上がることができるという、仕組みの初心者としては考えられないものであった。
そのあとの読書に自伝を読んだということで、再びエリゼ宮に行っていることが朝になって確認されたので、こちらの仕組みの公式行事のときに富士山の拠点に呼び戻したのであるが、自力ではコントロールできないようだった。
開ける星での読書会、赤城の大滝での滝行と調整が続けられたが、ウロウロするばかりなので、やむなく佐田の矯正エネルギーで彼を縛るしかなくなっていったのだった。
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五巡目の七
佐田のいない赤城山では扱えず、仕事にもさわるので、終わりにしてほしいとの依頼があったので、富士山の佐田の私有地に引き取ることになったのであるが、地球レベルの八合目の矯正衣を着せることでやっと落ち着いたナポレオンに、新しい課題が出されることになっていった。
佐田の私有地には小規模の滝もあったので、赤城山から引き継ぐ形での滝行を試みることになった。
五月二十六日の朝のことで、四十九日行の十二日目のことであった。朝食を終えたのちの最初の滝行には世話役を除いて五十名ほどが参加することになった。
朝十時から始めようとしていると、外野の参加者が突然現れて大太鼓を叩き、先行する三十名ほどが滝開きの儀式を始めたのだった。
それは「つぬぶて山」(処刑場の山)の、旧体制側のトップである農鳥岳の代表大神による大浄化のご挨拶であった。
お呼びしたわけでもなかったのであるが、勝手に乗り込んできて自分達の大祭のような大振る舞いをするのだった。
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